奈良県桜井市
主祭神:大物主大神(おおものぬしのおおかみ)
年代は不詳だが、創建についての伝承は、古事記や日本書紀にも記述があり、神代の時代から続く日本最古の神社とされる。
本殿はなく、拝殿の奥にある三ツ鳥居を通じて、三輪山そのものをご神体として拝するという原始神祀りの様を伝えている。
酒造りと三輪山の杉
ここでは、この古社中の古社につたわる「酒と杉」にまつわる伝承を紹介したい。
第十代・崇神天皇の御代、国中に疫病が蔓延し、人々の生活は大混乱に陥っていた。
そんな中、悩み苦しむ天皇の夢枕に祭神・大物主大神が現れ、
「わが子孫を祭主にし、酒を奉納せよ」
とのお告げ。
さっそく天皇は、高橋活日命(たはかしいくひのみこと)に命じて酒造りを行った。
また、祭神の子孫とされる大田田根子(おおたたねこ)を祭主として、神酒を奉納したところ、疫病は退散、国には豊かになっていったという。
無事に役目を果たした高橋活日命が詠んだ歌が、祭主・大田田根子によって編纂された歴史書「ホツマツタヱ」に残されている。
この神酒(みき)は
わが神酒ならず
大和なる
オオモノヌシの
神の神酒
いくひさつくる
杉葉いくひさ
意味は、
「この神酒は私が醸したものではなく、大和の国をおつくりになった大物主神様が醸された神酒です。杉の葉とともに幾世までも久しくあれ」
といったところか。
太古の昔から、酒造りにおいて杉は、必要不可欠なものだった。
伝統的な日本酒の醸造過程では、元となる麹造りに使用する「麹蓋」を杉の板で作る。
また、仕込み、貯蔵の際にも杉材で作られた木桶を使用していた。
酒母や醪(もろみ)を混ぜるために使われた櫂(かい)や櫂棒も、同じく杉材だった。
正月や祝いの席などにふるまわれる酒の樽も、多くは杉で作られている。
杉の木で作られた酒樽に貯蔵することで、爽やかな杉の香りが酒に移るのである。
杜氏の神様として今も祀られている高橋活日命は、それを知っていたに違いない。
この故事から、祭神は酒造りの神と敬われ、三輪の地は、美酒を産み出す酒どころとして人々に知られていく。
大神神社の神木は杉だが、時代とともに酒の神が宿る杉の枝を酒屋の看板にする風習が生まれ、やがてそれが酒ばやし(杉玉)となった。
あー、いますぐ酒飲みたい。
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